私は大学卒業後、東京の企業に就職が決まりました。
そこで実家のある兵庫を離れて、賃貸のアパートで一人暮らしをすることとなったのです。
引越し当日、両親に手伝ってもらい、まとめてあった荷物をトラックに運び入れ、東京の新居まで運んでもらいました。
新居につくと私と両親との3人で荷物を下ろし、荷解きも手伝ってもらったので思ったより早く一通りの作業が済みました。
引越しを手伝ってくれたお礼として夕食を奢らせてほしいと伝え、3人で居酒屋に入りました。
両親は最初から新居で一泊していく予定だったので、一緒にビールを呑みました。
両親は呑みながら「もう一緒にお酒を呑める年齢なのね」とか「一人暮らしをするまでに成長したんだな」とか、「明日から家にいないなんて、寂しくなるね」とか、今までの私との出来事を一つ一つ思い出しているように、感慨深そうにそんな話をしていました。
今までずっと実家で暮らしていた私にとっても、両親と離れて暮らすというのは現実として目の前にあっても、まだ実感のないことです。
「自分が一人暮らしなんて不思議な感じがする、実感が湧かない」と言うと「私たちもだ」と笑われました。
楽しく呑んで新居に帰宅した次の日の朝、兵庫に帰ろうとする両親に、この部屋の合鍵を渡しました。
なにかあったときのために、両親に持っておいて欲しかったのです。
両親はその鍵を大事そうにカバンにしまい「元気でね」と去っていきました。
あれから数ヶ月がたちましたが、その日のことを時々思い出しては、両親に会いたくなります。